少し前、航空無線通信士という資格試験を受けて合格を頂くことができました。
この記事では、資格の概要と、受けることのメリット・デメリットを書いていこうと思います。
資格の概要
航空無線通信士とは、電波法で定められている無線従事者資格の一つであり、簡単に言えば「航空機に関する無線設備の取り扱いができる資格」のことです。
具体的に法令を持ち出すと、以下のように記されています。
第三条(操作範囲及び監督の範囲) 航空無線通信士部分抜粋
電波法施行令 e-Gov法令検索
- 航空機に施設する無線設備並びに航空局、航空地球局及び航空機のための無線航行局の無線設備の通信操作(モールス符号による通信操作を除く。)
- 次に掲げる無線設備の外部の調整部分の技術操作
- イ 航空機に施設する無線設備
- ロ 航空局、航空地球局及び航空機のための無線航行局の無線設備で空中線電力二百五十ワット以下のもの
- ハ 航空局及び航空機のための無線航行局のレーダーでロに掲げるもの以外のもの
- 第四級アマチュア無線技士の操作の範囲に属する操作
・・・よくわからない表現なのでもうちょっとかみ砕いて説明しますね。
まず、「無線設備の操作」には大きく分けて「通信操作」と「技術操作」があります。
「通信操作」とは、マイクロホン等を使って実際に通信を行う操作のことです。簡単に言えば、マイクで音声を発したり、レーダー電波を発信したりと、実際に電波を出して行う操作です。
「技術操作」とは、通信操作に対応して、無線設備の調整及びこれに付随する操作です。上の文では「外部の調整部分の技術操作」とありますが、これは無線設備についているスイッチ類の操作のことを示していると考えて問題ありません。
以上のことをざっくりまとめると、
航空無線通信士は
- 航空機に関係する無線設備によるモールス信号以外の通信操作
- 航空機に設置されている無線設備のスイッチ操作
- 航空機のための無線設備のうち、空中線電力250W以下のもののスイッチ操作
- 3に該当しない、航空機のためのレーダー設備のスイッチ操作
ができるようになる免許ということです。
なお、上記の「航空機」の中にドローンは含まれていません。業務でドローンを使用する場合はまた別の無線従事者免許が必要になります。
ちなみに、4級アマチュア無線技士の操作範囲ともありますがこれは以下のように示されています。
第三条(操作範囲及び監督の範囲) 4級アマチュア無線技士部分抜粋
電波法施行令 e-Gov法令検索
- アマチュア無線局の無線設備で次に掲げるものの操作(モールス符号による通信操作を除く。)
- 空中線電力十ワット以下の無線設備で二十一メガヘルツから三十メガヘルツまで又は八メガヘルツ以下の周波数の電波を使用するもの
- 空中線電力二十ワット以下の無線設備で三十メガヘルツを超える周波数の電波を使用するもの
こちらは「操作」となっていますが、これは「通信操作」も「技術操作」も包括しています。
そして簡単に言うと、
4級アマチュア無線技士は
- 以下の条件を満たすアマチュア無線局による、モールス符号による通信以外の操作
- 空中線電力10W以下で電波帯が8Mhz以下および21MHz~30MHzを使用するもの
- 空中線電力20W以下で30MHzの電波帯を使用するもの
ができるようになります。
上記で業務用ドローンは扱えない旨を書きましたが、非営利・個人的使用である、いわゆる「アマチュア業務」で使用する場合にはOKです。
ちなみに、アマチュア無線免許の必要なハンディトランシーバーの空中線電力が5W程度なので、4級でも意外と扱えるものはあったりします。
最近では、一部のドローンを使用するために4級アマチュア無線の免許を取る人もいるみたいですね。
なお、無免許で免許の必要な無線局を操作した場合は1年以下懲役または100万円以下の罰金を科せられる恐れがあります。
また、無線設備を扱うためには無線従事者免許のほかに、一部の例外を除いて無線局の免許も必要になります。
無線従事者免許は簡単に言えば運転免許、無線局の免許は車検のようなものです。
無線設備を扱うためには、必要なものが結構あるということは覚えておきましょう。
違法無線を扱うなんて言語道断です。
航空無線通信士のメリット
航空無線通信士の概要について説明してきましたが、ここからは資格を取ることによるメリットを紹介していきます。
パイロットになるためにはマストの資格
航空無線通信士の資格で扱える無線設備の条件からも見てわかるように、この資格は航空関係に特化しています。
パイロットとして航空機に乗り込む際にも、航空機の無線を扱うためは必須の資格です。
なお、自家用操縦士レベルの国内運航であれば、ワンランク下の航空特殊無線技士でも大丈夫です。
そのため、この資格試験を受けに来る人のほとんどは航空業界関係者、特にパイロットの卵が多いようです。
ちなみに、自衛隊に入ってパイロットになるという方法もありますが、自衛隊の場合は電波法の免許要件が適用除外になるため、この資格がなくても航空機の運航ができるようです。
自衛隊の場合、代わりに部内専用の無線従事者免許が発行されるようですね。
航空業界で働く場合にも必要な場合がある
航空業界では、パイロットのほかにも無線を使う仕事はあります。
例えば、航空機の運航を管理している航空管制官は当然無線を扱うことになるので資格が必要です。
また、航空気象情報を収集するための気象レーダーや、航空機の航行を支援する航空保安無線施設の取り扱いに必要となることもあります。
その他、航空機の整備員や飛行場内で業務支援をする人でも、管制官や航空機と通信するために無線を使うようなケースはあります。この場合は監督者として有資格者を置いていれば、実際の無線機使用者が無資格でも大丈夫な場合があるようです。
このように、パイロット以外にも無線を使う業種は少なくないため、それなりの需要はあります。
その他、レアなケースでは船舶に搭載されている航空管制用の無線機を使う場合(トップガンなんかで見る航空母艦の発着艦管制をイメージしていただければ)にも航空無線通信士が必要になるようです。
船舶の場合、海上無線通信士という別の無線従事者資格がありますが、船舶内にあっても航空無線は別資格になるようです。
4級アマチュア無線技士相当のアマチュア無線局が扱える
航空無線通信士は4級アマチュア無線技士相当のアマチュア無線局も扱うことができます。
10~20W以下のアマチュア無線機や、一部のドローンを扱うことができるようになるので、資格取得を機にアマチュア無線を扱うようになる人も中にはいるようです。
私自身も、航空無線通信士の勉強をしてからアマチュア無線に興味を持った人です。
ちなみに、アマチュア無線機を業務用途に使ったり、逆に業務用無線をアマチュア業務に使うことはできません。
アマチュア無線と業務無線は周波数帯が分けられているため、機器を混ぜて使うことはできないようになっていますし、仮に使えたとしても目的外使用で違反になってしまいます。
航空無線通信士のデメリット
メリットに続いてデメリットも書いていきます。と言っても、取得して悪いことがあるわけではなく、受けるに際して「ここはちょっと…」というところを重視して書いています。
航空業界に関係しなければ無用の長物になる
ここまで書いてきたとおり、航空関係の業務に就くのであれば活躍の機会を作ることができる資格ではありますが、航空以外の分野となると、使えるところが大きく限られてしまいます。
「航空業界にはかかわる予定はないけど、4級アマチュア無線技士の操作範囲目当てで受ける」というのであれば、素直にアマチュア無線技士を単体で受けた方が手っ取り早いです。
あとはまあ、名前のカッコよさ(?)に惹かれるとかでもなければ…?
受験日程が少しシビア
航空無線通信士の試験は年2回、8月上旬頃と2月中旬頃に行われます。
ただし、試験日が設定されるのは平日であり、かつ試験日程はたいてい2日かかるので、平日に2日まとめて休みを取れる人でないと受験自体が厳しいです。
また、試験時程もまばらになることがあり、1日目の試験は9:00~15:00なのはまだしも、2日目が13:00スタートになる場合もあり、手持ち無沙汰になる時間が大きくなることもあります。
拘束時間が大きいので、受ける場合はなるべく一発で合格できるよう、しっかりと準備をして臨みましょう。
受験場所が限られる
航空無線通信士試験を受けるためには、指定の試験会場に出向くことになるのですが、試験会場は意外と限られています。
詳細は日本無線協会のページにある通りですが、例えば栃木県から受験を考えた場合、東京の晴海あたりが最寄になります。しかも上記のとおり試験日程は2日あることを考えると、試験地近くで宿泊するか、大幅に余裕を持った時程を組んで遠距離の往復を覚悟するかになります。
往復の場合、途中で交通機関の遅延が発生すると
目も当てられないことになってしまいますが。
また、試験会場は受験申し込み後に指定を受けるため、場合によっては希望地で受けられない場合があることも覚えておきましょう。
試験会場が近ければラッキーですが、そうでない場合は意外と移動の負担が大きくなる場合があるため、受験する際は移動計画までしっかり考えたうえで臨むようにしてください。
航空無線通信士試験の難易度
航空無線通信士の試験では、無線工学、法規、英語、電気通信術の4科目を受験します。
それぞれの詳しい内容は次の記事で記載しますが、合格点は以下のとおりです。
無線工学 70点満点中49点
法規 100点満点中70点
英語 105点満点(筆記70点、英会話35点)中60点
ただし、英会話の点数が15点に満たない場合不合格
電気通信術 送信、受信ともに100点満点中80点
一般的な合格率は30~40%程度で推移しているようです。
簡単とまでは行きませんが、しっかり勉強して臨めば合格することは十分可能なレベルです。
なお、この試験には科目合格制度もあり、合格点を取っていた科目は試験日翌月から起算して3年以内の試験では申請により免除を受けることが可能です。
一発合格が厳しいようであれば、科目合格で少しずつ攻略していくのもアリでしょう。
さて、航空無線通信士について、以上のとおりまとめてみました。
次の記事では、私が実際に受験した時の体験記を書いていこうと思います。
え、なんで私が航空無線通信士なんて受けたのかって?
まあ、色々あるのですよ。
続きの記事はこちらからどうぞ。
今回の所はこの辺で。
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