前回の記事の続きです。
この記事では、私が実際に航空無線通信士を受験して、合格に至るまでの道のりを書いていきます。
受験の申し込み
私が受験を決断したとき、ある程度の勉強時間を確保したうえで受験できるのは8月の試験でした。そのため、8月の試験を受けるべく計画を進めていきました。
受験の申し込みについては、日本無線協会のHPから申し込みができます。
なお、一部の無線従事者資格はCBT方式で随時受験ができるようになってますが、航空無線通信士は対象外なので、一般の筆記試験を受ける必要があります。
受験料は2024年12月時点で9,300円+手数料220円です。
なお、申し込みができる期間は、試験日の2か月前の月の1~20日の間に限られます。
8月の試験であれば、試験申し込みは6月1日~20日の間に済ませる必要があります。
受験場所は「東京都、札幌市、仙台市、長野市、金沢市、名古屋市、大阪市、広島市、松山市、熊本市及び那覇市」が基準です。この地域以外にお住まいで受験を考えている方は、移動や宿泊の計画もしっかり整えておきましょう。
受験を申し込むと、申し込み月の翌月下旬ごろに受験票がメールで届きます。郵送ではないので、申し込んだ後で時期になったらメールボックスをしっかりチェックしましょう。
メールで届いた受験票は自身で印刷して会場に持ち込むことになります。
プリンターを自分で持っていない場合は、コンビニプリントなどのサービスを活用しましょう。
試験に向けた勉強
試験を申し込んだら、当日に向けて勉強を進めていきます。
航空無線通信士の参考書はそれほど種類が多くありません。
「情報通信振興会」という会社から標準教科書も出ていますが、試験に出る可能性の低いところまで分野が網羅されていて、時間をかけて体系的に学ぶのであればいいのですが、効率という点ではイマイチと思ったので、私は「やさしく学ぶ 航空無線通信士試験」という本を選びました。
上記に一応リンクは貼ってますが、2024年12月時点で
楽天・アマゾンともに売り切れてしまっているようです・・・
この本は、試験に出る可能性が高い部分に重点を置いて説明してくれているため、効率的に勉強ができます。
本を一通り読んだ後は、過去問演習に移ります。
過去問演習にはスマホアプリを使いました。
私はAndroidユーザーだったので、アプリを検索した結果、hayasystemさんの「航空無線通信士」を使いました。
このアプリは無料アプリですが、広告を見ることで回答可能な問題数が増えるタイプのものでした。時間の空いたタイミングで広告を流して問題数を一気に増やし、まとめて問題演習ができるようにして使っていました。
試験当日~1日目~
そうしているうちに試験日になりました。会社には有休を申請して休みの許可をもらい、宿泊用の宿も抑えた上での出発です。
受験場所には東京を選んだので朝早めの電車に乗って東京へと進出します。1日目の試験会場は日本無線協会のビルでしたが、晴海の微妙に電車が通っていないところにあるので、少し歩くことになりました。
試験会場には受験票と、マークシートに使える筆記用具、私はシャーペンと消しゴム、あとは電気通信術用にボールペンを持っていきました。
席に指定はないため、到着した順で受験番号ごとに指定されたエリア内の好きな場所に座ります。なお、試験に関する説明があるため試験開始の15分前までには着席しておく必要があります。
無線工学
まずは無線工学の試験が09:30から開始です。出題の内容は、
- 電気物理
- 電気回路
- 半導体
- 電子回路
- 通信方式
- 送受信機
- 電波航法と航法無線装置
- 電源
- 空中線及び給電線
- 電波伝搬
から全部で14問出題されます。
計算の必要な問題もありますが、すべてマークシートなので、最終的には運を天に任せる作戦を使うこともできます。
基本的には過去問からの出題がほとんどで、新規に1~2問程度出る程度なので、過去問演習をしっかりやっていれば、特に苦労はしないと思います。
なお、試験時間は1時間30分で、試験開始から45分で退出ができるようになります。見直しまで済んだら退出して、次の試験に備えるのもいいでしょう。
ただし、待機場所ではお静かに。
法規
続いて11:20から法規の科目です。出題の内容は、
- 電波法の概要
- 無線局の免許
- 無線設備
- 無線従事者
- 運用
- 業務書類等
- 監督
- 国際法規
から20問が出題されます。
こちらには計算問題もないため、過去問をしっかりやっていれば特につまずくようなものではありません。
法規の科目が終わったところで昼休みに入ります。
ちなみに、私が受けたときの試験会場内は飲食禁止で、食事は廊下や屋外でとるようになっていました。
英語
午後からは英語の試験です。
英語の試験はリスニングとリーディングの2パートに分かれていて、まずはリスニングのパートから始まります。
リスニングの試験時間中にスマホや時計のアラームやバイブレーションなどを鳴らすと、不正行為および試験妨害で一発退場になるという旨を何度もアナウンスされましたので、音の出る機器の管理はしっかり行いましょう。
リスニングは全7問出題され、内容としては一般的な話題や航空業界にかかわる内容が出てきます。
問題文が読まれ、回答の選択肢は問題用紙に記載されています。
一般的な内容に関しては、会話を聞き取りさえできれば回答できると思いますが、試験のリスニングは割とネイティブな発音で話されるので、しっかり耳を澄まして聞くようにしましょう。
航空業界にかかわる内容については、ある程度知識が必要な問題も出てきます。例えば、
When the ATC controller says, “Climb and maintain 370,” what has to be maintained?
(管制機関から「370に上昇し、維持せよ」と言われたら、何を維持しなくてはならない?)令和6年8月リスニング試験 第5問 (日本語訳は筆者追記)
- Bearing(針路)
- Flight Level(フライトレベル)
- Destination(目的地)
- Ground Speed(対地速度)
この問題の場合、上昇という単語があるので飛行高度のことを示しているのは何となくわかるかもしれませんが、選択肢の中にはAltitude(高度)という単語が直接は出てきません。
答えは2番の「Flight Level」です。
航空業界では、高度のことを「フライトレベル(FL)」という場合があり、問題文にある「370」というのは、正しくは「FL370」を表しています。フライトレベルというのは、3桁の数字×100フィートの高度になるため、FL370は37,000フィート(約11,300m)を表しています。
ちなみに、この高度も対地高度というわけではないのですが、
解説すると長くなるのでこの辺にしておきます。
このように、ある程度航空関係の知識が問われる問題が出てくるため、受験前に航空関係の用語を学んでおく方がいいです。
リスニングが終わったらそのままリーディングの試験に移行します。
なお、リスニングの解答用紙はリスニング終了時点で回収されてしまい、後で手直しすることはできませんので注意してください。
リーディングの試験では、一般的な長文読解の問題と、航空法規に基づいた問題、和文英訳の問題から大問で5問、小問にすると12問程度出題されます。
こちらでも航空関係の知識を問われる場合がありますので、関係する用語や単語をある程度学んでおく方がいいでしょう。
なお、英語試験に関しては過去問から出題されないので、純粋な英語力が問われます。航空無線通信士試験の関門は英語と言っても過言ではないかもしれませんので、勉強する際、過去問は出題の傾向を探るための参考にとどめ、あとはとにかく頑張りましょう。
その分、英語が得意な人はかなり有利になります。
試験時間は13:30分からリスニングが30分、リーディングが1時間30分です。問題数の割に時間はあるので、落ち着いて臨みましょう。
これで1日目の試験は終了です。
なお、問題用紙は持ち帰ることができますので、回答を控えておいて自己採点に使うこともできます。
私もさっそくホテルで自己採点をしてみて、おそらく合格圏内であることは確認できました。
試験当日~2日目~
2日目の試験は場所が変わって「TOC有明」というところでした。
「聖地」と名高い東京ビッグサイトのすぐ近くです。
私の指定された試験時間は13:00だったのでかなり時間に余裕があり、ホテルのチェックアウト時間まではのんびり温泉につかり、余裕をもって試験会場に向かうことができました。
なお、2日目の試験時間は13:00のほかに09:30から開始の場合もあります。運が良ければ1日目の15:30から受けられる場合があるようですが、受験者が時間を選ぶことは残念ながらできません。
電気通信術
音声のみの通信となると、時に聞き間違えを起こすことは往々にしてあります。
例えば「M(エム)」と「N(エヌ)」、「D(ディー)」と「T(ティー)」など、母音が似た発音の文字では特に聞き間違えやすいものです。
間違えは誰にでもあるとはいえ、航空業界で文字の聞き間違いをすることは、時に不安全事象につながる可能性があります。
そこで、各アルファベットの読み方を聞き間違えないように標準として設定されたものが「フォネティックコード」です。
各アルファベットの読み方は下表のように対応した単語が設定されております。この単語でアルファベットをやり取りすることで、聞き間違えを未然に防止するようになってます。
上の例に書いた「M(エム)」と「N(エヌ)」なら「M(マイク)」と「N(ノベンバー)」、「D(ディー)」と「T(ティー)」は「D(デルタ)」と「T(タンゴ)」になるため、聞き間違えは起こしにくくなります。
A | アルファ | N | ノーベンバー |
B | ブラボー | O | オスカー |
C | チャーリー | P | パパ |
D | デルタ | Q | ケベック |
E | エコー | R | ロメオ |
F | フォックストロット | S | シエラ |
G | ゴルフ | T | タンゴ |
H | ホテル | U | ユニフォーム |
I | インディア | V | ヴィクター |
J | ジュリエット | W | ウィスキー |
K | キロ | X | エクスレイ |
L | リマ | Y | ヤンキー |
M | マイク | Z | ズールー |
電気通信術の試験では、このフォネティックコードの受信と、送信の二つが行われます。
私の場合、ある事情からもともと使い慣れていたため特に勉強はしていませんでしたが、初めての方は最低限アルファベットとフォネティックコードを紐づけして、聞かれたらパッと変換できるくらいに慣らしておくことが大切です。
ある程度覚えたら、道端のアルファベットが書かれた看板を変換して読み上げるような練習なんかも手軽で効率的です。
まずは受信からですが、試験時間はなんと2分間です。2分の間ひたすらに送話されてくるアルファベットを聞き取り、解答用紙に記入していきます。
問題は2分間で100文字送話されてくるので、ペースはまあまあ速めです。
送話が終わったらそのまま試験終了になり、すぐに用紙が回収されてしまいますので、後から手直しはできません。記入は素早く、かつ試験官がちゃんと読める文字で記入するように心がけましょう。
特に怖いのは、シャーペンの芯切れや低品質なボールペンによるかすれにより、試験途中に書けなくなることです。
この試験ではボールペンや万年筆の使用もできます。途中で書けなくならない、信頼性の高い筆記用具を準備しておくことを強くオススメします。
受話の試験が終わったら、今度は送話の試験です。グループごとに分けられ、試験官に呼ばれたら一人ずつ試験を行っていきます。
試験は紙に書かれたアルファベット100文字を対面の試験官に対して読み上げていく方式です。試験時間は2分間なので、テンポよく進めていきましょう。
試験官に呼ばれたら、紙を手渡されます。
(始めます。本文)
A K D E B W G I C Q I S F Z P ・ ・ ・ ・ ・
(100文字続く) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ W F I C V
(終わり)
こんな感じに5文字区切りでランダムに100文字書かれているので、試験官がちゃんと聞き取れるように送話していきましょう。
試験時間は「本文」から「終わり」まででカウントされます。
5文字送話したら少しだけ区切って、また5文字ずつ送話していきます。
もし、送話の途中で間違えたときは「訂正」といい、間違った文字の2~3字前から再送していきます。
なお、電気通信術は100点から始まる減点方式であり、減点には基準があります。
採点区分 | 点数 | |
送信 | 誤字、脱字、冗字 | 1字ごとに3点 |
発音不明瞭 | 1字ごとに1点 | |
未送話字数 | 2字までごとに1点 | |
訂正 | 3回までごとに1点 | |
品位 | 15点以内 | |
受信 | 誤字、冗字 | 1字ごとに3点 |
脱字、書体不明瞭 | 1字ごとに1点 | |
抹消、訂正 | 3字までごとに1点 | |
品位 | 15点以内 |
特に注意すべきなのは「品位」の項目で、試験態度のほか、あまりにも訂正が多かったり、不明瞭な発音を繰り返してしまったときにこちらで減点が発生する恐れがあります。
電気通信術の合格点は送受信ともに100点満点中80点以上なので、ここで15点引かれてしまうと、それだけで合格が厳しいことにもなりかねません。
さて、いざ私の出番が回ってきました。
始めます。本文 ALHGE JMSDF ・・・ ISTDN 終わり。
おっ、いい速度だねぇ。
ただ、「フォックストロット」の発音がちょっと不明瞭になりがちだね。
まあ、大きな問題じゃないけど。
はい、ありがとうございました。
(Fだけちょっと言いづらいんだよなぁ)
こんな感じで試験は終了しました。
個別に呼ばれて試験が終わった後は、特に集まったりはしないので、そのまま解散になります。
試験の手ごたえは十分だったので、悠々と自宅へ帰りました。
試験終了後
試験終了後、合格発表は3週間後です。自己採点の結果と、電気通信術の手ごたえから合格圏内と思ってはいました。
そして合格発表の日、日本無線協会から合否通知のメールが届きました。
メールに結果が書いているわけではなく、無線協会のHPへのリンクと、アクセス用のパスワードが示されていて、結果はリンク先で確認するようになってました。
さて、結果は・・・よし、合格だ。
これにて一安心。
試験結果は発表日から1か月掲載されているので、その間に確認して手続きを進めていく必要があります。
ところが、この時点の私は何を思ったか、無線従事者の申請書類があとから郵送されるものと勝手に思い込んでました。
はて、そろそろ申請書類一式が届いてもいいころなのだけど・・・?
合格発表から1週間たっても何の連絡も来なかったので、改めてメールを読み直してみると、
なお、合格された方については、総務省(総合通信局)に提出する無線従事者免許申請書(受験事項掲載済)をダウンロードできます。(試験結果が合格でなかった方はダウンロードできません。)
(無線従事者免許申請書(受験事項掲載済))
https://exam.nichimu.or.jp/applicants/licenseApp.html
(申請書記入上の注意(総務省のホームページ;手書きで提出する様式を含む))
https://www.tele.soumu.go.jp/j/download/radioope/
合格通知のメールにしっかりと無線従事者免許申請書のリンク先まで記載されてました。
慌てて書類をダウンロードし、申請書類を作成しました。メールはしっかり読みましょう。
ちなみに、申請書類はxlsx形式、つまりはエクセルのデータがダウンロードされます。
ところが、私のPCには実はOfficeを入れてないので、xlsx形式のデータを開けないという事態になりました。
さて、Officeをいまさら買うのも高くつくし、どうしたものかな?
色々考えた結果、Microsoftが提供しているOffice Onlineではエクセルの機能が一部無料で使えることに思い至ったので、Office Onlineを使って無事データを読み込むことができました。
データには受験申し込みに使った顔写真が貼付され、必要事項がほぼ記載された状態となっていますので、あとは不足部分を埋めればすぐにでも出せます。
なお、どうしてもデータの申請用紙が扱えない場合は、総務省の電波利用ホームページからフォーマットをダウンロードしてきて、手書きで作成しても大丈夫です。
免許の申請をするにあたって必要なものは以下のとおりです。
- 無線従事者免許申請書
- 氏名および生年月日を証する書類
- 手数料(1750円分の収入印紙)
- 写真(申請書にデータで貼り付け済)
- 返信先を記載し、切手を貼付した返信用封筒(免許証の郵送を希望する場合)
「氏名および生年月日を証する書類」に指定されているのは、住民票の写し、戸籍抄本、印鑑登録証明書、住民票記載事項証明書のみです。マイナンバーカードは珍しく使えないようです。
または、住民票コード、無線従事者免許証、電気通信主任技術者資格者証、工事担任者資格者証を持っている人はその番号を所定欄に記載することで、書類の添付が省略できるようです。
手数料の納付に使うのは収入印紙です。似た名前に収入証紙がありますが、収入印紙は国へ印紙税を払うために国が発行している証票であり、収入証紙は地方公共団体へ手数料を払うために地方公共団体が発行している証票ですので、用途は全然違います。
収入印紙にしろ、収入証紙にしろ、
見た目は切手によく似てますね。
なお、収入印紙は郵便局で購入できます。書類郵送時に購入し、貼り付けてから出すのがいいでしょう。
返信用封筒は、免許証を郵送で受け取る場合には併せて送付する必要があります。封筒がない場合は各地域の総合通信局で手渡しで受け取ることになります。
普通郵便でも問題はありませんが、不安な方は簡易書留などを追加してもいいでしょう。
さて、こうして申請書類一式を用意して、やっとのことで郵送できました。
申請書を出してから、免許証が届くまでは大体1~2か月かかるとのことなので、気長に待つことになります。
そして待つこと5週間が経過したころ、やっと免許証が手元に届きました。
自動車免許と同じプラスチックのカードサイズです。画像では見づらいですが、富士山のホログラムが入ってちょっとゴージャスな感じです。
無線従事者免許証に有効期限はありませんので、何かやらかして取り消されない限りは生涯有効です。
こういう形で手元に来ると、なんだかやり切った感があって嬉しいものです。
こうして選択肢の幅を広げることができたので、また次のステップへと進んでいきたいところですね。
今回の所はこの辺で。
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