私は、過去に応用情報技術者試験にチャレンジし、合格をいただくことができました。
その体験記については別の記事にて書いておりますが、今回はさらなるステップアップとして情報処理安全確保支援士試験を受けてみました。
この記事では、まず試験の概要を書いていきます。
IPAが主催する情報処理技術者試験のレベル4
情報処理安全確保支援士試験は、情報処理推進機構(Information-technology Promotion Agency=略してIPA)が開催する情報処理技術者試験の一つです。
情報処理安全確保支援士、漢字で書くとやたらと長いので、このページでは以後「支援士」と呼称します。支援士は、2016年10月までは「情報セキュリティスペシャリスト」という名前でしたが、同月に「情報処理の促進に関する法律」が改正されたことで誕生しました。
支援士の目指す人物像は「サイバーセキュリティに関する専門的な知識・技能を活用して企業や組織における安全な情報システムの企画・設計・開発・運用を支援し、また、サイバーセキュリティ対策の調査・分析・評価を行い、その結果に基づき必要な指導・助言を行う者」とされています。
IPAでは支援士の他にも以下のとおり様々な資格試験を開催しています。
各試験によって「共通キャリア・スキルフレームワーク」というレベル付けをしており、そのレベルは下記のとおりです。支援士はこの表で言うところの最高位のレベル4に相当します。
レベル4 | 情報処理安全確保支援士試験 |
システム監査技術者試験 | |
ITサービスマネージャー試験 | |
エンベデッドシステムスペシャリスト試験 | |
データベーススペシャリスト試験 | |
ネットワークスペシャリスト試験 | |
プロジェクトマネージャー試験 | |
システムアーキテクト試験 | |
ITストラテジスト試験 | |
レベル3 | 応用情報技術者試験 |
レベル2 | 基本情報技術者試験 |
情報セキュリティマネジメント試験 | |
レベル1 | ITパスポート試験 |
他の試験と支援士の違いは、他の試験が「国家試験」という位置づけなのに対し、支援士は試験合格後に所要の手続きを踏んで登録することで、「国家資格」として名乗ることができるようになることです。
医師法に基づき、医師免許を持たない人が医師を名乗ることができないのと同じように、情報処理の促進に関する法律に基づき、支援士の登録をしていない人が情報処理安全確保支援士を名乗ることはできません。
試験を受けるメリット
支援士試験を合格することによって得られるメリットを考えてみました。応用情報技術者に似通っている部分はありますが、大きな違いは支援士が士業の一つとして認められていることでしょうか。
士業として名乗ることができる
先程も書きましたが、支援士は資格がなければ名乗ることのできない名称独占資格です。他の情報処理技術者試験に比べて、これは支援士にしかないメリットです。
また、支援士に登録することで、IPAが定めるロゴマークを使用できるようになります。ロゴマークを使えるのは登録された支援士本人あるいは支援士が所属する組織です。
ロゴマークの他に、弁護士や行政書士などの士業が持っているような徽章(ピンバッジ)も貸与を受けることができます。
本音を言えば、貸与でなくて支給とか、購入できる方がいいのですが…
士業ということで、社会的信頼性も高く、やり方によっては資格保有による評価アップにつなげることも可能です。
情報セキュリティに関する深い知識を得ることができる
支援士は元情報セキュリティスペシャリストという名前で、ITの中でも特にセキュリティ関係に関して深い知識が試験において求められます。試験のために必要な知識は大別すると以下のとおりです。
- 脅威とサイバー攻撃の手法
- セキュリティ技術
- セキュリティマネジメント
- ソフトウェア開発技術とセキュリティ
- ネットワーク
- 国際標準・法務
試験合格、資格保有をすることによって、セキュリティに関して深い知識を持っているということを客観的に証明することができます。
高度な知識を求められることからも試験の難易度は高く、合格率は15~20%程度です。
一方、他の高度情報処理技術者試験に比べると一番合格しやすい試験であるとも言われています。
参考までに、未経験者が支援士試験を受ける場合に必要な勉強時間は500時間程度といわれています。一方、実務経験があったり、情報学科出身などで基礎知識がある場合はより少ない時間となり、だいたい200時間程度になります。
定期的に知識がアップデートできる
支援士として登録した場合、資格を保持し続けるにあたっては定期的な更新が必要です。
更新にあたってはオンライン講習への参加や特定講習の受講が必要であり、資格保持のためには最新の知識を学び続けなくてはいけません。
裏を返せば、更新を続けることで進歩の早い情報技術について定期的に学ぶことができるということであり、一度取得したら終わりの他の試験に比べると、知識が陳腐化しにくいです。
他の情報処理技術者試験を受ける際に一部免除が受けられる
応用情報技術者、他の高度情報処理技術者試験にも共通していますが、支援士試験に合格した場合、他の高度情報処理技術者試験を受ける際、申請によって一部科目を免除することができます。
具体的には、2つある午前試験のうちITに関する共通知識を問う「午前I」を免除できます。
その分、受けたい試験の分野の勉強に集中できるので、試験合格を目指す人にとってはメリットです。
ただし、免除が有効なのは試験合格から2年間に限られます。例えば2022年秋の試験で支援士に合格できた場合、免除が有効なのは2024年秋の試験までとなります。
他の国家試験の一部免除がある
支援士試験に合格することで、他の国家試験において一部の科目を免除できます。
具体的には下記の科目において免除があります。
- 弁理士(論文式筆記試験の選択科目「理工V」を免除)
- 技術士(1次試験の専門科目「情報工学部門」を免除)
- 中小企業診断士(1次試験の一部科目)
- ITコーディネータ(ITC)試験(科目の一部免除、専門スキル特別認定試験受験資格)
こういった資格取得のための足がかりとするのもいいかもしれませんね。
資格保有により企業採用で有利になる場合がある
DX、デジタル化が叫ばれる昨今においては、ITスキルに対する需要は確実に伸びてきています。
IT技術に優れた人材を欲しがる組織というのは少なくありません。資格によってIT技術を持っていることを客観的に証明できるため、特にIT企業における採用で有利に働くことが考えられます。
また、下記にあげた職業のように、支援士資格保有が採用の条件になっている場合もあるようです。
- 警視庁、一部県警
- 自衛官(公募幹部・技術曹コース)
- ものづくりマイスター「ITマスター」
- 青年海外協力隊(PCインストラクター、コンピュータ技術隊員)
支援士のデメリット
ここまで様々なメリットを並べてきましたが、一方でデメリットも存在することは事実です。受験を考えている方は、デメリットについても理解した上で望みましょう。
現時点で独占業務はない
支援士は名称独占資格ですが、その一方で支援士でないとできない業務というものはありません。また、不動産事業所に必置義務がある宅地建物取引士のように、ITに携わる組織へ必置義務がある資格というわけでもありません。
そのため、支援士に登録したからと、それだけで生活できるような資格ではないのが現状です。
ただし、今後の法改正によって変わってくる可能性は0ではありません。
現に、経済産業省では支援士の普及策の一環として必置化が検討されています(リンク先13番)。今後の進展には期待できそうですね。
登録しないと支援士を名乗ることはできない
支援士を名乗るためには、試験合格したあとに所要の手続きを経て登録することが必要です。いくら試験に合格していても、登録しないと支援士を名乗ることはできませんので注意してください。
もし、試験合格して未登録の状態で履歴書等に書きたい場合は「情報処理安全確保支援士試験合格」「情報処理安全確保支援士資格」あたりの書き方にするのが無難でしょう。
ちなみに、支援士を詐称すると30万円以下の罰金刑に処されます。
違反すると罰則を伴う法的義務がある
士業ということで、法的に義務を負うものがあります。
- 秘密保持義務
- 信用失墜行為の禁止
- 毎年の講習受講義務
信用失墜行為と受講義務違反は支援士の資格停止または取り消しの処分となります。
秘密保持義務に違反すると、資格停止または取り消しに加えて1年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑に処されます。
いやー、私が昔支援士だったときに、◯◯社のシステムに携わることができたんだ。
ここだけの話だけど、そこのシステムって大きな脆弱性持っててね。修正にかかる費用が膨大すぎて未だに放置してるんだってさ。笑っちゃうよなぁ!
あのー、秘密保持義務は当該職を離れたあとでも同様に続くんですよ?
ちょっとこちらへお願いします。
取り消しを受けた場合はそこから2年間は再登録ができません。
非常に重い責任を負う資格であるということは留意しておきましょう。
登録、更新費用がかかる
試験に合格して支援士に登録する場合、登録手数料10,700円と登録免許税9,000円の計19,700円が必要になります。
また、支援士は3年ごとに更新が必要であり、更新のためにはオンラインによる共通講習を毎年受講し、更新期限の60日前までに「IPAが行う実践講習」または「民間事業者等が行う特定講習」を1回受講する必要があります。
オンライン講習は1回20,000円、IPAが行う実践講習は1回80,000~160,000円、民間事業者等が行う特定講習は事業者によって異なります。
つまり、資格維持のためには3年間で少なくとも14万円かかることになります。この額が高いとみるか安いとみるかは資格をどう活かすかによるでしょう。
特に目的もないのに登録するのであれば高いでしょうし、何らかの明確な目的を持って登録するならば安くもなります。
登録更新料を企業側で払ってくれるケースなどもあるようなので、色々調べていい具合に支出コントロールを行うといいでしょう。
さて、この記事では情報処理安全確保支援士試験の概要を説明してきました。
私自身の受験体験記はコチラです。
今回の所はこの辺で。
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